作成日記

2022/02/20

つるはしの音作りと、音作りに対する考え方

2月20日に公開した「つるはしで掘る」シリーズの効果音作成の方法をざっくりと公開します。この記事を通して、一見淡々と音を公開しているだけに見える当サイトの、音作りに対する考え方もある程度知っていただけるかと思っています。

効果音ラボの音作りは、戦闘系ジャンルが一番苦労しています。映画やアクションゲーム等に使用されることを考え、爽快感を重視している関係で、録った音をそのまま公開するわけにいかないからです。
なぜ録ったままではいけないのかというと、例えばパンチの音は、そのまま録るとこうなりますが、サイトで公開しているのはこの音です。録ったままの音は全然爽快感や迫力がありません。

爽快感や迫力を出すためには、別の音とのミックスするなどの手のかかる編集や試行錯誤が必要で、他のジャンルの音より作成時間がどうしても長くなります。今回のつるはしの音は生活系にジャンル分けしましたが、RPGの戦闘シーンに使われる可能性もあるので戦闘系と同じ爽快感重視の作り込みをしていくことにしました。

それでは作成手順を音源も交えて紹介していきます。
※このページの音源はフリー素材ではないためダウンロードや使用は禁止となります

STEP1.
鉄の尖った棒を地面に打ち付ける音を収録。鉄棒を変え、20回ほど録った。
録音データ(試聴用に不要部分をカットしたもの)
こういう場合、だいたい20テイクくらいは同じ音を繰り返し録っている。1回だけだと、「いい音」がたまたましないこともあるため。どれがいい音か悪い音かは、それまでの音作りの経験から判断。
この中から良いテイクを選定する作業に入る。途中で風の音も入っているうえ、何度か打ち付けに失敗しているのでそこは除外しなければならない。録音してみて、録ったままだと迫力がないタイプの音だと分かり、迫力を出すための加工が必要と判断。途中、石に打ち付けてしまった「キーン」という音が入っているが、これが後で役立つことになる。

地面や金属棒の種類を変えながら収録

STEP2.
テイクを3つに絞った。複数にした理由は、つるはしでひたすら掘るシーンの効果音として使われるとした場合、音が1種類だけだと単調になるだろうと考え、利用者側からすると複数のバリエーションの音が欲しくなるだろうと判断したため。打ち付けた後に、地面からつるはしを引き抜く金属音があったほうがいいかと思ったのでこれも追加。
作成中バージョン1

STEP3.
ドコッと打ち付けた後に、多少岩が崩れる音が入っているほうが掘っている感じが出ると思ったので、追加。
作成中バージョン2

STEP4.
打ち付けた時に、金属音がないとただの岩が割れる音になってしまうので、剣を鞘に収める音を収録した時の不採用音源とミックス。さらに音に重さを追加し完成(重低音はスマホでは聞こえにくい。ヘッドホン推奨)。このページで公開しているバージョンは4回分だが、実際の修正回数は20回。あとで制作に役立つことも多いので、すべてのバージョンをPCに残している。
公開バージョン
洞窟で使われることが多いと思われるので、洞窟のリバーブ(残響)もかけたバージョンも作ったが、利用者がつるはしで掘るシーンに人の声などを入れる場合、編集ソフトの違いから人の声部分だけつるはしと違うリバーブになるのはほぼ確実であり、違和感が生まれてしまうと判断。結果、リバーブはダウンロード後にかけてもらう想定として、リバーブありバージョンは非公開とした。

STEP5.
キーンというテイクを聴いているうち、ゲームに使われる場合、ダイヤモンド等のお宝を掘り当てた時の音にしてもいいなと思いつく。これはこれで公開することにした。迫力を出すため他の金属音も加えている。
お宝掘り当てバージョン

STEP6.
昔プレイしたゲームで、つるはしで壁を壊せるシステムがあったことを思い出し、つるはしで壁を壊す音の作成も思いつく。作成には、以前栃木県の山で撮った岩を砕く音源を使うことにした。山での録音は、小石を空に投げてパラパラ落ちる音を録ったり、大きな岩を別の岩にぶつけてくだく音を、手をすりむきながらも収録したが、音づくりで役立つ機会が多いので、音としてストックしておいて良かったと度々感じている(今はコロナで遠出が厳しいため尚更)。しかし当然岩を砕く音も20テイク以上録音していたため、良いテイクの選定にも時間がかかった。岩が崩れる音を何重にも重ねがけし、EQによる調整を加えている。
壁壊しの音の作り込み中

STEP7.
迫力がないと感じたため、さらに大量に石の音をミックス。つるはしの音も追加。
つるはしの音追加

STEP8.
まだ迫力が今一つなので、再度ほかの岩の音をミックスし公開。さっきの音と一見同じに見えるが、実は違う。何回も同じ音を繰り返し聞いてチェックしていると、だんだん感覚がマヒしてどれもいい音に聞こえてきてしまうため、日を改めての確認も行っている。
つるはしで壁を壊す(公開バージョン)

9.作った音が少し長くゲームに使いにくいと感じたため、短縮したバージョンも用意。
つるはしで壁を壊す(短縮バージョン)

最終的に結構な修正回数に

結果として、音源を作り込むうちに別の音源のアイデアを「思いつき」、それも作成した形ですが、これは効果音作成者としてはあるあるなことかと思います。今回はつるはしのバリエーションを増やす形での思い付きでしたが、全く別のジャンルの効果音を思いつくこともあります。効果音ラボは10個以上まとめて効果音を公開することが多いのですが、1度に公開する音のジャンルがバラバラなことが多いのはこのためです。

効果音ラボは「戦闘」「生活」などジャンル分けがされていますが、PCで作り込んでいる段階でも同じようにフォルダー分けしています。まずそこで作り込み、納得いく品質に達した音のみ「公開スタンバイ」フォルダーに集め、さらに何度も聞き直してから公開します。

ここまでこだわる理由は、企業様に使われることが多くなったというのもあるのですが、一度音作りを行うと没頭でき、クオリティを高くしないと気が済まなくなる自分自身の性分というのが大きいと感じます。苦労もあるのですが、それ以上に高品質な音を無料で世に出すことができているという達成感が勝ります。

このように、淡々と効果音を量産するのではなく、利用者視点で考えを巡らせた音作りをしています。私自身ゲーム好きでゲーム作成も行ってきたため、ゲーム制作者の皆様に対し、どういった音源を作ればいいのかの方向性も決めることがある程度できるので、そのスキルを活かした運営をこれからも行っていきたいと思います。

効果音ラボは多くのシーンで使われるようになり、私の個人サイトではなく、皆様のサイトになったと感じています。より良い品質の効果音づくりを、これからも追求していきます。つるはしの音のダウンロードは生活[3]からどうぞ。

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