作成日記

2016/07/09

火の鳥を追って修験道の地・羽黒山へ

今年の野鳥録音で目標の一つとしていたのが、アカショウビンの声の収録です。漢字で書くと赤翡翠で、字の通り翡翠(カワセミ)の仲間です。キョロロロロ…と尻下がりに鳴く声は森によく響きます。非常に珍しい鳥でもあり、現れるとカメラマンの人だかりができたりもしますが、山形県の羽黒山ならどこにでもいるという情報を得て、7月某日、初となる泊まり込みでの録音を行うこととしました。

アカショウビンは山奥の暗い森の水辺に棲んでおり、個体数も少ないため、鳴き声を耳にすることは滅多にありません。今回録るアカショウビンの声は、山奥の森の環境音として使うことができるのではと思っています。滅多に耳にしない声である分、秘境感もかなり出るかと思います。

目的の録音ポイントは羽黒山の南谷みなみだにで、ここはアカショウビンの生息地としてTVで紹介されたことがあります。松尾芭蕉のゆかりの地でもあり、「有難や 雪をかほらす 南谷」の句碑もあります。かつて寺が建てられていた場所であり、池には天然記念物のモリアオガエルが生息しています。このモリアオガエルはアカショウビンのエサなので、アカショウビンお気に入りの場所となっているわけです。

1日目の録音は、アカショウビンは一回だけ飛来したものの、すぐに飛び去ってしまいました。アカショウビン以外にも、ポポ、ポポ と面白い声で鳴くツツドリなど、初めて声を聞く野鳥が多く確認できました。夕方になってからはキョキョキョッキョとヨタカが鳴きはじめました。ヨタカの鳴き声は夜のシーンを表現する効果音として非常に使えるので、今後ちゃんと声を録音したい鳥です。

羽黒山は修験道の山です。山へ籠もって厳しい修行を行う人たちがいるわけで、坂の急さ加減もすさまじいものがあります。下から頂上まで続く石段は2446段あり、その途中の脇道から南谷へ行くことができます。当日はアカショウビン以外の鳥の声も録るため、南谷で放置録音して別の場所に行ったりもしました。

石段の途中には茶屋もあり、ここで休憩がてら野鳥の情報を得ることができました。平日に行ったのですが茶屋で休憩する方は多く、録音機を持っている関係上、自然と野鳥の話になったりもしました。石段を上っている間も、キビタキをはじめいろんな鳥の鳴き声が聞こえてきます。下から上ってくる方は例外なく息切れしていましたが、私も下から上ってきたら、恐らく疲れで録音になっていなかったかと思います。

急な石段が続く三の坂
坂の途中にある二の坂茶屋

録音にあたり南谷から頂上までを4往復することになりましたが、急な石段のため体力を相当に消費し、次の日に録音が可能なのか心配になるほどでした。しかも野鳥録音で1泊するからには、次の日は早朝に起きねばなりません。早朝といっても6時ではなく、3時です。小鳥はこの時間に一番よくさえずり、アカショウビンも例外ではありません。

2日目の朝、なんとか早朝に南谷へと向かうと、カメラマンの方がいました。どうやら目的はアカショウビンの撮影のようです。話を伺うと、今年は出現期のピークを過ぎたということでした。また、何故か今年は池のモリアオガエルが激減しているという情報も。となると、エサが少なくなってもうアカショウビンは来ないのではという不安が頭をよぎります。

アカショウビンは出現ピーク時期には会えない日はほぼなく、早朝4時からカメラマンやバードウォッチャーが大挙し、その人数は多いときで20人以上にもなったということです。しかし、ピークを過ぎてから来たのはラッキーでした。現地に人がいると、カメラのシャッター音などが入ってしまうからです。ただ、アカショウビンは最近は滅多に現れないとのことなので、録れるのかは怪しくなってきます。

効果音ラボでは、自然音にはシャッター音や人の声などを絶対に入れないことにしています。最近は企業様との取引が多く、今回録った音もTV番組に使われたりする可能性があるため、自分でルールを決めてクオリティを担保するようにしています。

本当は2日目も頂上から南谷を往復したかったのですが、足に痛みがあることと体力が持たないため断念し、南谷でアカショウビンをひたすら待つことにしました。待つこと2時間、キョロロッ…キョロロッ…という声が聞こえ、アカショウビンが飛来しさえずり始めました。飛び去ったと思ったらしばらくしてまた飛来、さえずって飛び去ってまた飛来…。大サービスもいいところで、録音成功間違いなしと確信しました。特に数羽のアカショウビンの鳴き交わしは感動的でした。アカショウビンは通常30秒に一度程度しか鳴かず、個体数も少ないので、こんなに連続で鳴き交わすのを見られることは滅多にありません。これも生息密度が高い羽黒山ならではです。

南谷の休憩ポイントでひたすら録音

ところが、聞き返すとハエの音がかぶっている音ばかりで、ほとんど使えるテイクがありませんでした。特に鳴き交わしはハエの音がかぶっていなければ絶対に使いたかったところです。結局、2日目もうまくいったとは言い難い結果になってしまいました。

こうなれば最後の頼みの綱、昨日夜から放置録音をしておいた録音機のデータを確認します。この夜間放置録音も初の試みで、強力な電池と大容量のSDカードを用意し、降水確率が低い日を狙うなどの準備をしてきました。

PCM-D100で録音

すると、昨日私が宿に帰った直後にアカショウビンが飛来し、20回ほど鳴いていたことが判明。何の雑音もかぶっておらず、ほっと胸をなでおろしました。

地面に設置しておいた別の録音機のデータも確認しましたが、地面に置くと草がパキパキと鳴る音が入ってしまうことが分かり、使い物になりませんでした。録音データには、謎の生き物に蹴られたりいじられたりするなどの音も入っていました。ネズミか小鳥なのかとは思いますが、今後は地面に置くことは避けていきたいところです。

今回の録音は体力ギリギリまで粘り、帰りのバスではまともに動くことができないほど疲れましたが、20時間近くにも及ぶ録音データを得たにもかかわらず、3分の環境音が1、2個しか作れないという厳しい結果になりました。セミが本格的に鳴きはじめると鳥の声はまったく録れなくなりますが、それまでには少し時間があるので、可能な限り環境音を収録したいところです。今回収録したアカショウビンの声は、現在制作中の新効果音ライブラリ「SD」で公開となりますので、今しばらくお待ちください。

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