作成日記

2014/06/04

大自然は手強いぞ! ~日本三鳴鳥録音編

大自然に最新鋭録音機で挑む今年は自然の音、特に野鳥の声の録音に力を入れています。室内で録音できる効果音がある程度揃い、作りたい残りの効果音は、録音にお金(旅費)がかかる音がほとんどになってしまっているためです。

現在の目標は、日本三鳴鳥といわれる特にさえずりが美しい鳥3種と、サンコウチョウという珍しい鳥の声を、クリアに録ることです。彼らの声を録音し、最終的には、山の中のシーンを演出する効果音を作成しようと考えています。サンコウチョウを録音対象に加えたのは、子供の頃に野鳥に興味があって、その頃から見たいと思っていたことと、鳴き声をYouTubeで聴いてみてきれいだと思ったのが理由です。また、森の奥深くに住み、普通の人がさえずりを耳にすることはまずないため、秘境の森の演出などに使える効果音になるかなとも考えました。

そこで、上記4種のうち、コマドリ以外の鳥が見られるという自然公園で3日にわたる音声収録を慣行しました。

一日で全部に出会うことは不可能に近い

以前、この日記でマイク設置録音について書きましたが、山の野鳥は虫を食べるため、エサでおびき寄せることは期待できません。「鳥の声なんて、適当に山に行って、適当に録れば、テレビで使われるクオリティの音になる」。そう考えていた時期が私にもありましたが、現実は全く違います。目的の鳥のいる山を調べ、一日中森を歩いて探すわけです。相手は自然であるため、お目当ての鳥が必ずいる保証などありません。

そして、目当ての野鳥を発見した後も、できるだけ近くに接近しなけらばならないという問題があります。遠くから録音した場合だと……こんな感じになってしまいます。鳥の声が小さすぎますね。このままでは効果音として使えないので、編集して音量を大きくする必要が出てきますが、サーという音も一緒に大きくなるのが分かっていただけると思います。この音は、どんなマイクでも入ってしまうノイズです。いくら静かな場所で録音しても発生します(完全無音のスタジオでも発生)。これは深刻な問題です。なぜなら、ノイズの音だけを編集で取り除くことは不可能に近いからです。

では、ありったけ鳥に接近して録ってみます。近くだと鳥の声も大きくなるため、編集でボリュームを上げなくても効果音として使えます。「サー音」も小さくて済みます。でも、近づきすぎると鳥に逃げられてしまいます。このあたりのサジ加減が難しいところですが、野鳥の声録音は、とにかく近づくことが第一、ということが分かっていただけたかと思います。野鳥の声の録音が職業として存在する理由も、それをする人が少ない理由もわかる気がします。特にフクロウなどは、真夜中の山に入るという超恐怖体験をしなければ録音できないため、録った人は個人的に尊敬に値します。

また、車や飛行機の音も問題です。山奥だとそんな心配ないんじゃないの?と思う方もいるかもしれませんが、逆に静かすぎて、遠くの音もハッキリ聞こえてきてしまうのです。それに、自然公園といえど人は車でやってきます。その音や、公園内のキャンプのガヤやイベントの音、谷を抜ける風もバカになりません。特に風は、マイクに風防を付けていたとしても、木の葉が揺れる音が発生し、効果音としての質を低くしてしまいます。出かけるまでに風速は確実にチェックしなければなりません。

今回はこれらの問題に直面し、大自然での録音の難しさを肌で感じつつも、目的の野鳥の全種類の一応の収録には成功という結果となりました。では目的の鳥たちを、音声付きでご紹介しましょう。

オオルリ
オオルリ日本三鳴鳥のひとつ。名前の通り瑠璃色の羽根を持ち、幸せの青い鳥とも呼ばれる。他の鳥の鳴きまねをすることがあり、さえずり方は複雑。「ピリーリー、ポィヒーリー、ピールリ、ピールリ、ジィ、ジィ」と、高い木の上でさえずる。結構な個体数がいたので思いのほか録音チャンスが多く、接近に成功しまあまあの音が録れた。他の鳥の鳴きまねもするが、録音する側としては混乱するのでやめてほしいところだ。
ウグイス
ウグイス日本三鳴鳥のひとつで、春告鳥ともいわれる。さえずりは「ホーホケキョ、ケキョケキョケキョケキョ」。説明は不要なくらいに名前も鳴き声も有名だが、すべての個体がホーホケキョと綺麗に鳴くわけではない。繁殖期以外はチャッチャッと地味な声で鳴く。体色も地味であり、ブッシュ(やぶ)の中に隠れて生活していることもあって、姿を見ることは難しい。そこら中から声がしたため、なんとかそれなりの録音ができた。夏が近づくとさえずるのが下手になるらしく、今回も「ホーホケキョ“キョ“」と鳴いているのが分かる。
コマドリ
日本三鳴鳥のひとつで、オレンジ色の小鳥。渓谷に生息する。林の中の野鳥紹介看板に絵がなかったので、画像は残念ながら用意できなかった。さえずりは「ヒンカラカラ」。都内のJRのホームでたまに鳴き声が流れている。今回行った自然公園には、いるとされていなかったが、オオルリの鳴きまねかもしれないものの、それらしき鳴き声の録音に成功。録音した鳴き声は、かなり遠くからのものであり質が低いため、サイト上で公開する素材としては使えないと判断した。「カカカカッカッカッカッ」と後ろで聞こえてくる音は、コゲラのドラミング(キツツキが木を高速でつついてメスに求愛する)音。ゴオオオという音は飛行機の音。
サンコウチョウ
サンコウチョウ「ツキ、ヒ、ホシ、ホイホイホイ」と鳴くため、月、日、星になぞらえて三光鳥さんこうちょうと名づけられた。目の周りが青く、繁殖期のオスは体長の倍ほどもある長い尾を持つ。一番声を録りたいが、発見も一番難しい鳥。遠征1日目は、カメラマンの一人が見たという報告を聞いたのみで発見ならず。2日目も発見できず、3日目にしてようやく遠くから微かに聴こえてくる声をキャッチ。録音を試みたが、遠すぎて質の良い録音ができなかった(自然公園であり、指定した道以外は進入禁止なため、そこに逃げられると追うことができない)。また、今回の録音では「ツキ・ヒ・ホシ」の声が変だったので、オオルリがマネて鳴いていただけの可能性がある。

現地には年配のカメラマンが集まっていました。手には望遠レンズを持ち、狙うはオオルリです。私も一応撮影用にEOS-70D(デジタル一眼レフ)を持っていっているのですが、鳥を映しても点にしか映りません。望遠レンズは数十万するので、とても手が出ないのです。カメラマン同士の話し声やシャッター音も録音時の雑音になってしまいますが、たまに野鳥の目撃情報を提供してもらえるのでそれほど気にしていません(笑)。探鳥という同じ目的を持つ者同士、なんだか親近感もわきます。せっかくなので、私が録った森の生物ギャラリーをご覧ください。

生物ギャラリー

カジカガエル
渓流に生息するカエル。日本で一番美しい鳴き声のカエルだといわれる。江戸時代にはカジカガエルを入れる専用のカゴが作られるなど、古くからその美声が親しまれてきた。数匹が川のほとりで鳴いていたほか、森の中を流れる小川にもいた。
コゲラ
日本最小のキツツキ。森の中ではドラミングも聴かれた。キツツキ類はさえずりをしないが、その代わりにドラミングを行う。木の幹を高速でピョンピョン跳ねて移動するが、どうして垂直な木の幹に止まっていられるのかが不思議だ。
ハンミョウ
漢字では斑猫と書く。こちらが近づくと1メートルくらい飛んで逃げる、動きの素早い虫。その動きからミチオシエとも呼ばれる。子供の頃に一度見たきりだったが、ここでは大量にいた。体色が美しく、タマムシのように、見る角度によって体の色が変わる。
ゴミグモ
巣の中央にゴミ(食べかす)を集める習性があるクモ。普段はそのゴミの上に足をたたんで静止しているが、完璧に擬態しており、どう見てもゴミの一部にしか見えない。写真はエサの昆虫を捕らえたところ。体のサイズはかなり小さい。

なんか脱線気味になってきましたが、今回録音した野鳥たちの鳴き声のクオリティが高い部分を抜き出し、つなぎ合わせたのが春の山です。録音も編集も相当な労力を費やし、まさかこれほど大変だとは思いもよりませんでした。鳥個別の鳴き声は現在サイトで公開できるよう加工中です。今後の録音時の目標は、野鳥の声を、市販の「野鳥の声素材CD」以上の録音クオリティで公開することです。このため、現在、R26をパラボラ集音マイクに改造中です。狙った方向の音を中央のマイク部分に集めることで、目的音声の増幅と周囲の雑音を減らす効果があり、野鳥録音家も使っているからです。

今回の録音では、コマドリとサンコウチョウの声のクオリティが低いという問題点が残ったため、後日リベンジのため三浦半島に突撃しましたが、完全なる失敗に終わりました(近くの川の音がうるさいため録音にならなかった)。しかし、一度火が付くと何としてもクオリティの高い音を録りたくなる性分なので、まだまだ出撃してきます。

「春の山」のダウンロードは、環境音[1]からどうぞ。

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